2010年08月22日

S団地にて ある日曜日のこと  S

「こないだ、あれ、きた。宗教の勧誘。」
ごうださん宅でコーヒーだかなんだかを飲んでいるときに、いつもの、あの、暢気な調子で言うもんだから、
「ばかだなあ、だれだか確認してからドアを開けなよ。危ないし、第一、そんなのが来たら断るのがめんどくさいよ。」
心底飽きれた口調で、あんた、そんなことも分かんないの?という調子で返したはずなのだけど。
それなのに。

お昼はレッドカレーでも作ろうと、おもしろくもないテレビをうつろに眺めながらぼんやりと無為に過ごす、そんな日曜日。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴って、あまり鳴ることがないから(ごうださんやつぎたさんが、ごく稀にたずねてくるときは、なぜだかチャイムを鳴らさず、扉をたたいて、「こんにちはー」と言う。ごうださんの「こんにちはー」は「じいさんやー」とばあさんが言うような口調)、慌てて、驚いて、ガチャリとドアを開けてしまった。

もちろんそこには、ごうだ家にも訪れたであろう、宗教を勧誘する初老の男女が立っていた。
「ほんと、毎日、暑くて、いやになっちゃいますね。」
日傘を持った初老の女性がゆったりした口調で言った。「でも、ここは風通しがよくて、涼しい」と、立て続けに付け加えた。
「ええ。」
短い返答の後、団地特有の、重たい鉄の扉を閉めようとしたのだけど、なんだかできなかった。タイミングというか、そうじゃなくて、悪いなって思ってしまった。

「写真がお好きなんですか?」
すこしの沈黙のあと、玄関に貼った写真に目線をむけて、たずねてきた。
質問タイムがはじまってしまった。なんで、玄関、開けちゃったんだろう、とため息出るような後悔を感じる一方、初老の女性に見られてしまった写真のことが気になりだした。あー。よりによって、なんで、この写真をここに貼っちゃったのかなあ。
その写真は、妹が留学中に送ってきた絵はがきで、モントリオールの街中に、夥しい数の、裸体の男女が横たわる、というもので、アート作品なんだろうけれど、結構気に入っていたものだった。

そんな写真を玄関先に貼っていることを、日曜の昼下がりに、宗教の勧誘にきた、見ず知らずの初老の男女に見られたことをなぜだか少し恥ずかしく感じたのだ。というか、それを恥ずかしいと思ってしまうことが羞恥心を何倍にもした。
「写真っていうか、アートがすきなんですよ」と説明のような返答をしようかな、と思ったりもしたけど、「べつに好きじゃないです。」と無愛想な返答を選んだ。
「これから、この世の中はどんな風になっていくんでしょう。子どもたちにどんな世界を残せるんでしょう。」
話が核心に迫ったところで、
「すいません。そういうの、興味なくて、ほんと、すいません」と玄関のドアを閉めた。

女性ばかりが話していて、男性は始終寡黙で、一歩下がって、わたしのことを眺めていたな。と思った。あと、玄関、開けてすぐに「前にも寄せてもらったわね」と言っていたな。
もしかして、ごうださんと間違えた?メガネかけた、一風変わった女なんて、どれも同じに見えるのかしら。どれも、というほど、そんな女はいないけれど。

団地にはエレベータがない。この暑さのなか、5階まで階段をのぼってきて、宗教にはいりませんか?ってどういう思いが言わせているんだろう。それは信仰心なのか。それとも一種、サークル活動のようなものなのか。

あの玄関先の写真、ちょっと目につかないところに貼り直そうかな、とか真剣に考えたりした。


posted by chochobocko at 21:56| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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